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2024年05月19日
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スレルクってフォルダ名

2010年09月23日

スレルク
=大変スレにスレて磨耗した状態のルークのこと。



 こちらでございます。と使いの者が奇妙な材質で作られた重々しい扉をゆっくりと押す。扉は軋みの音も立てず滑るように観音開きに開いた。
 かつて共に旅した者達と、聖職者と身なりのいい二人の人間。その1人はバチカルの一番高い場所で接見した事がある人間だ。
「ルーク!」
 一番はじめに反応したのは金の短髪の青年だった。心配していたような懐かしむような、そして裏切られたような。信じていると言ってくれた事は今でも忘れていない。けれど。
 だがそのような視線をくれた人間は青年だけで、後の者は見たくないモノを見てしまったような目だ。
 呼び付けられたのはこちらの方だというのに。ルークは返す目に力を込めて睥睨するような視線をくれてやった。
 誰もがとまどいになんとも言えない顔をしている中、中央上座、バチカル国王の隣に座っている褐色の肌の男だけは物珍しそうに目を向けてきた。ダァト聖堂でバチカル国王に肩を並べる事が出来るという事はこの男がマルクト皇帝か。四十も越えない若い皇帝だ。しかし一目見て嫌いなタイプだと思った。ちらりと目線を軍服の男に向けるが、男はメガネの位置を直す真似をしただけで何の表情も伺えなかった。全くよく似た主従だ。
 一歩進み出て二人の支配者の前に立つ。
「これはこれは大層なお顔触れで!!」
 わざとらしく演技がかった手振りでお辞儀をした。
「初めてお目にかかります皇帝陛下。そして伯父上におかれましてはご機嫌うるわしく、御拝謁を賜りまして恐悦至極に存上げます。ああ、失礼致しました、インゴベルト国王陛下とおよびせねばなりませんね」
 にっこりと優雅に笑ってみせる。屋敷ではめったに見せない貴族らしい身のこなしで。
「う、む…そなたも元気そうでなによりだ」
 大儀そうに言うバチカル国王の顔が一瞬歪むのをみてわずかに溜飲が下がった気がした。
「ええ見てのとおりです。世間ではアクゼリュスと共に死んだと言われておりますが―――まぁ概ね預言の通りだとは思いませんか?」
 バチカル国王の隣に座ったマルクト皇帝がピクリと反応した。
そう、マルクト領アクゼリュスはバチカルの親善大使によって崩落消失した。膨大な資源と何万ものマルクト国民を巻き込んで。
 それは全て預言のとおり。必然の道だったのだ。
 パチパチ
 ルークの手のひらが乾いた破裂音を作った。
「おめでとうごさいますインゴベルト陛下。バチカルの繁栄は約束されたも同然ですね!」
「ND2018 聖なる焔、まあしがないレプリカの代役なのがこっけいですが似たようなものでしょう、仲間をつれて鉱山の町へ行く。聖なる焔、その力を災いとしてすべてを滅ぼした。まあ、適当で申し訳ないですがこんなものでしょう。そしてそれをきっかけにキムラスカとマルクトは戦争に入り、その結果マルクトは滅び、キムラスカは大いなる繁栄を遂げるだろう!」
 まるで役者が一人舞台に立っているかのように歌い上げる。
 バチカル国王が青ざめる。マルクト皇帝の顔がこわばる。王の娘国王を射るように見つめた。
「まぁ、私が死ぬ事だけが成就されませんでしたがある意味、ルーク・フォン・ファブレは死んだのでよろしいではありませんか!」
 笑いが込み上げる。堪え切れず、最後には腹を抱えて笑い出す始末だ。
 周りのものは奇異の目で見てくる。しかし構わず笑い続けた。
 預言だと。
 なんて馬鹿らしい。レプリカには庇護もなく祝福も無く預言もない。
 その俺に預言だと。
「失礼。どうも最近笑い上戸なもので。」
 存分に笑った後で姿勢を正し直す。バチカル国王は顔を強張らせ、マルクト皇帝は不愉快そうだ。ますます気分が良くなってきた。
「さて、本題に入りましょうか。どうやらあなたたちが望むものを私が持っているそうですね。結論から言えば、そう――――持っています」
 がたん、といちばん対極の席へ座ってたオリジナルが席を立とうとするのを王女が止めた。あいかわらず頭に血が上りやすい男だ。
昔の自分を見ているようで苦笑いする。
「バチカルの為なら喜んで、と申し上げたいところではございますが。残念です。私はレプリカでしてね、オリジナルの世界とは関係ありません。つまり、」
 一区切りつけて近くの席にどかりと勝手に座った。さっきまでとは打って変わったような横柄な態度で。さらに薄汚れて泥も落していないブーツを行儀悪くもテーブルの上に投げ出した。
「おまえらの世界がどうなろうと関係ねぇな」
 ゆったりとくつろぎながら意地悪く顔をゆがませた。
 手のひらから滑り落ちた一振りの刀に、遠巻きにいた護衛たちがすかさず腰に手をかけた。が、メガネの軍人が制して止めさせる。オリジナルがあえぐようにつぶやいた。
「ローレライの剣……ッ」
 文字通りふって沸いた剣は己と同じ振動数でできている、名をローレライの剣と言う。ローレライの名のとおり第七音素を集め、行使する能力があった。
 平素はメガネの軍人がするように腕の一部と同化しているが、使うとなるとたちまちに姿を表した。全く便利な機能だ。
「欲しいのはこれだろう」
 今世の中を蝕む障気、第七音素の癒しの力はそれを中和して無効化することが出来た。ルークの小さな家はその力のおかげで清浄な空気で満たされていた。
 世界中が今その毒に冒されてることは無論承知していた。
 だが、
 俺は世界を捨てたのだ。世界が俺を捨てたのと同じように。
 だから何もしない。
「残念。これはやれねぇな」
 むきだしの刃は現れた時と同じように淡く光って消えた。
「ですが世界が滅びてしまいますのよ!?お願い致します。それをアッシュに渡してくださいませ」
 王女が嘆願してくる。金色の巻き毛のつむじを見つめながら、ルークは実に無感動だった。
 世界のためにかけずり回る、そこになんの意味があるのだ。滅ぶのならそれが世界の選択なのに。
「ナタリア、やめなよこんな男に頭なんて下げる必要無いよ!別の方法探そう!」
 導師守護役の少女が王女の肩に手を触れ、同じくしてルークオリジナルも王女の肩に手を置いた。
「てめぇ、なにほざいてるか分かってんだろうな!?」
「なにもかも。言っただろう?どうだっていい。この瘴気が世界を覆っているのだってどうせオリジナルどもの自業自得だ。そのツケが回ってきたってだけだろ。何をいまさらじたばたしてんだか」
「ですから、その剣を下されば世界は救われるのです。それがなぜわからないのですか。この世界が滅んでしまえばあなたも、すべての人たちも死んでしまうのですよ!?」
 わかりたくも無い。
 このオリジナルのためにある世界を救えだと。
 神に、ユリアに祝福された世界をだ。

「滅べばいい」

 われながら暗い声が出たと思う。
 ルークの死を読んだユリアも。
 預言の死に俺を差し出した父親も、国も、
 死を押し付けてくるオリジナルの世界も。
「しかしそれでは俺がこまるんだな」
 若い、しかし覇気のある声だった。帝王の声とでも言おうか、自信に満ち、張りのある声。
 ゆっくりと上座にしつらえられていた玉座のかたわれから席を立つ金毛の皇帝、ピオニー・ウパラ・マルクト九世。希代の賢王として国内では絶大な人気を誇っているらしい。
「俺は王だからな、国民のいない王などさぞかし間抜けなモンだろうよ」
 一歩、一歩近づいてくる皇帝に、一瞬ひるみはしたがすぐに目に力を入れて相対する。
「レプリカに王などいない」
 何もない。
「俺がお前を拘束し、拷問してでも剣を奪わないと思わないのか」
 ざわりと空気が震えた。眼鏡をのぞく誰しもが発言主の顔を注視した。ルークを殺したバチカル国王でさえも。
「為政者ならそうすべきだろうな。だが無意味だ。あんたはそれを知っているんだろう?」
 眼鏡に一瞬視線をくれてやってから再びマルクト皇帝を見やる。表情を変えないってことはイエスと言うことだ。
「お前もろともとなっても?」
「どうせいらねえ人間……レプリカだ。惜しむ命なんてあるわけねぇだろ」
 生きる意味など初めから無かった。かりそめの命は死んだように生きて、生きながらに殺された。すべて、オリジナルの描いた図画のように。
「だったら」
 鬼のような形相で自制をしているらしいアッシュが立ち上がる。しかし聞いてやるほど暇じゃない。制して、代わりに口を開く。
「断る」

 だれが世界など惜しむものか。

 それですべての話は終わりのようだった。


「ルーク!」
 呼び止められた名に冷たく一瞥を返す。王女がその目にひるんだように固まった。怯えたのだろうか、そうだろう、今までこの王女はこのような目を誰からも受けたことが無いのだから。
「誰の名だ。ルークはそこにいるデコスケの名前だろう」
 ぎっ、ときつい目で睨付けて来るオリジナル。しかしなんの感情も抱く事は無い。
「ルークの名前なんざもういらねぇ。聖なる焔の光? 笑わせんな。アッシュ、欲しけりゃやるよ。取り返したかったんだろう」
 ククク
 漏らした笑いにオリジナルが激昂した。二人の貴人を前にして腰のものを引き抜く。
 一瞬の光。
 金属同士がぶつかりあう音と誰か女の悲鳴。1合、2合と打ち合いをする。こっちだって無駄に遊んでいたわけじゃない。ユリアシティのように一方的にはならず、互角の戦いだった。
「貴様さえいなければ!」
 後方に大きくとんだ後オリジナルは切っ先をこちらに向けて突進してくる。
 あの時とは逆に血が上っているのはオリジナルでこちらはむしろ冷めた気分で剣を合わせる。
 俺がいなければ?
 あぁそうだろうよ、俺がいなければおまえがルークとしてあのファブレ館で住み何不自由なくお貴族様をやっていただろうよ。そして予言の通りにアクゼリュスで死んだんだ。
 突き出してくる刃を剣の腹で流してはね上げる。滑るように歩を進めて肘を脇腹にたたき込んだ。普段のオリジナルならばこのような醜態はさらすまい。しかし頭に血が上って冷静さを欠いた状態ではこちらに分がある。
 オリジナルは蛙が潰れたような声を出して壁にぶち当たった。
「アッシュ!!」
 王女が崩れ落ちたオリジナルに駆け寄る。荒い息を吐いてオリジナルが射殺さんばかりに睨み付けて来た。視線で人が殺せるものか。
「大丈夫ですかルークどの」
 剣を腕の中に収めてにっこりと、よく似た顔で微笑む。
 さらに激昂したオリジナルは王女を押しのけ、剣の柄を握り直した。
「やめて!やめてちょうだい!!」
 悲鳴がオリジナルとレプリカの間を分けた。
「もうやめて…!」
 栗色の髪が左右に揺れる。音律士は頭を肩で抱えながらがぶりを振っていた。
「あなたは何もする気は無いのでしょう? ならばもう帰って」
 突き放すような言い草で、けれど顔は苦しそうに。
「ティア……ですが!」
「さようなら、ルーク」

 今度は名を否定することは無くその部屋から出て行った。


 そういえば、かの青年は最初から最後まで一度も口を開かなかったな。そんなことを思い出しながらその町を後にした。
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